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認知症・相続対策情報

親の預金口座凍結に備える5つの対策【超キホン】

カテゴリー: 任意後見 家族信託

更新日:2025.04.06

このブログに興味をお持ちいただきありがとうございます。

今回は、「親の預金口座凍結に備える5つの対策」ということで解説させて頂きます。お困りの方にとって

さて、本日のテーマは、「親の預金口座がもし凍結されてしまったら、生活費や介護費が引き出せなくなってしまう!」という、決して他人事ではない、切実な問題に備えるために、今からできる5つの対策について解説していきます。

少し前ですが、2022年9月にこのようなニュースが報道されました。

「関西2府4県では2030年までに累計で約26万人の金融資産が凍結する可能性がある。三井住友信託銀行の調査によるもので、凍結資産の総額は9兆円にものぼる」

このニュースは、認知症患者の増加に伴い、莫大な金融資産が凍結される可能性があるという警鐘を鳴らすものでした。銀行は、預金者本人が認知症であると判断した場合、口座を凍結することがあります。これは、詐欺や相続トラブルなどを防ぐための措置です。

実際に、私の友人にも、お祖母様が認知症になり、預金口座が凍結されてしまったという事例があります。通帳には数千万円の預金があるにも関わらず、一切引き出せなくなり、現在はご親族が生活費や介護費を立て替えているという状況だそうです。

本日は、預金口座凍結対策5選、そして、対策としてよく挙げられる成年後見制度家族信託のメリット・デメリットについて、わかりやすく解説していきたいと思います。難しい言葉も出てきますが、ご安心ください。できる限り噛み砕いて説明いたします。

日本は、いよいよ本格的な超高齢化社会に突入します。これは、若い人よりも高齢者の方が多くなり、経済社会にとって不利益が続く時期のことです。このような時代を迎えるからこそ、親族でいかに効果的に話し合い、次世代へ円滑に財産を引き継いでいくかのプランニングがますます重要になります。親のことを思うなら、またご自身の将来のことを思うなら、できるうちにしっかりと話し合っておきましょう。このブログが、その一助となれば幸いです。

それでは、本題に入りましょう。預金口座凍結対策5選です。

  1. 生前贈与で少しずつ資産を移していく
  2. 親のキャッシュカードを使えるようにしておく
  3. 金融機関の代理人制度を利用する
  4. 親の年金受け取り口座と生活費引き落とし口座を同じにしておく
  5. 成年後見制度や家族信託を活用する

それでは、順番に見ていきましょう。

1.生前贈与で少しずつ資産を移していく

これは、親が元気なうちから少しずつ子供に財産を移していく方法です。現在の税制では、年間110万円まで非課税で贈与することができます。これは暦年贈与と呼ばれています。贈与を受けた子供は、この財産を将来の親の生活費や介護費用に充てることができます。

生前贈与のメリットとしては、

  • 誰に渡すかを親が自由に選べる:認知症になった後では、誰にどうお金を使われるかわかりません。
  • 節税になる:相続財産が多ければ多いほど相続税も高くなりますが、贈与によって相続財産の額を減らすことで、相続税を安くすることができます。

一方、デメリットとしては、

  • 税務署に贈与として認めてもらうのが面倒な場合がある:例えば、預金の名義を親から子に変更しただけでは、贈与が成立していないと否認される可能性があります。
  • 相続開始前3年以内の贈与は相続税の対象となる:亡くなる直前の駆け込み贈与を封じるための措置です。さらに、法改正により2024年1月からは段階的に、相続開始前7年以内の暦年贈与が相続税の対象となります。相続人となる人への駆け込み贈与をさらに封じる改正となります。以下の表をご参照ください。

(国税庁ホームページより)

いずれにしても、税理士とよく相談することが重要です。また、生前贈与には暦年贈与と相続時精算課税という2つの方法があり、2024年1月からの法改正によってルールが変わっています。ご自身の資産状況に合わせて、最適な方法を検討する必要があります。

親としては、資産の所有者が自分ではなくなることや、金銭の贈与によって親子関係に新たな問題が生じないかといった不安を覚えるかもしれません。しかし、そのような不安がないのであれば、贈与は効果的な選択肢の一つと言えるでしょう。

2.親のキャッシュカードを使えるようにしておく

積極的におすすめはしませんが、このような対策もあります。親からキャッシュカードのありかと暗証番号を聞いておく方法です。いざという時、親のキャッシュカードをそのまま利用します。

口座が凍結されて困るのは、お金を引き出せなくなるからです。逆に言えば、キャッシュカードと暗証番号さえ分かれば、当面の問題は生じません。

しかし、デメリットも多くあります。

  • キャッシュカードを紛失した場合、再発行の手続きには親の本人確認が必要であり、認知症になった後では難しい。
  • 親族内での了解がないと、後日、使途不明金による相続トラブルが発生する可能性がある。

この方法を行う場合は、事前に親から明確な承諾を得ておくことが重要です。また、誰がいつ、何にいくら使ったのかを1円単位で記録し、領収書も保管しておく必要があります。親族全員の承諾を得て、きちんと記録をつけられる親族がいる場合にのみ有効な対策と言えるでしょう。

3.金融機関の代理人制度を利用する

「親のキャッシュカードをそのまま使うのは気が引ける」「もっと正式な方法はないのか」と感じる方は、金融機関の代理人制度の利用を検討しましょう。

金融機関によっては、代理人制度を設けている場合があります。例えば、三井住友銀行のホームページには、「預金者ご本人様が事前に申し込みいただくことで、ご自身が銀行窓口やATMにご来店できなくなった時に、ご本人様に加わって代理の方がお手続きできるサービス」があると記載されています。

このような登録をすることで、代理人名義のキャッシュカードを発行してもらえる場合があります。代理人制度には、

  • 速攻型:届出をすれば、親が元気なうちから代理人も権限を持てる制度
  • 予約型:親の判断能力が低下した後、証明書や診断書を提出することで代理人に権限が与えられる制度

の2種類があります。親が利用している金融機関にどのような代理人制度があるのか、そもそも制度自体がないのかは、金融機関によって異なりますので、必ず確認が必要です。

銀行だけでなく、証券会社にも代理人手続きの制度がある場合がありますので、株式投資などをされているご家庭は確認しておくと良いでしょう。証券会社で代理人手続きを済ませておけば、親の判断能力が低下した場合でも、代理人が有価証券の売買などを行うことができます。

4.親の年金受け取り口座と生活費引き落とし口座を同じにしておく

預金口座が凍結されて困るケースとして、年金が振り込まれる口座や多額の預金がある口座が凍結された上で、日常の生活費の引き落とし口座がそれらとは別になっている場合があります。

例えば、A口座に年金が振り込まれ、B口座にまとまった預金があり、C口座から水道光熱費、D口座から住宅ローン、E口座からクレジットカードの引き落としがあるといった状態です。この時、A口座やB口座が凍結されてしまうと、他の口座の残高が不足し、引き落としができなくなってしまう可能性があります。その結果、親族が生活費や介護費を立て替える必要が生じます。

そうならないために、最初から親の年金受け取り口座と生活費の引き落とし口座を同じにしておくことが有効な対策となります。

すでに介護施設に入居している場合なども同様です。年金受け取り口座と施設利用料の引き落とし口座を同じにしておくだけで、いざという時も多少は安心できます。口座が凍結されても、年金で残高が補充され、これまで通り引き落としがされていくからです。

収入と支出を一つの口座にまとめておくことで、親族にとっては管理がしやすくなります。どの支払いを止めるべきか、どれはそのままにしておけるかなどが見える化されるため、ある程度の資金計画が立てやすくなります。

5.成年後見制度や家族信託を活用する

ここまでは、比較的すぐにできる対策を紹介してきましたが、最後に紹介するのが成年後見制度家族信託です。これらの制度は、専門家を交えて時間や費用をかけて行う、より本格的な対策となります。

成年後見制度

成年後見制度とは、知的障害、精神障害、認知症などによって、一人で決めることに不安や心配のある人を、法律的に支援する制度です。財産管理や身上保護など、本人の判断能力に応じて、後見人、保佐人、補助人が選任され、本人をサポートします。

成年後見制度のメリットとしては、

  • 成年後見人が本人の財産を管理できる:預貯金の払い戻し、自宅の売却や建て替え、賃貸用不動産の管理、貸金庫の開け閉めなどが可能になります。
  • 本人が行った不利益な契約を取り消せる:高額なリフォーム、悪質な訪問販売、不要なサブスクリプションなどを取り消せる可能性があります。
  • 他の親族の使い込みを防止できる:後見人以外の親族は、原則として預貯金の払い出しなどができなくなります。

一方、デメリットやリスクも存在します。

  • 事務負担が重い:親族が後見人になった場合でも、定期的に家庭裁判所へ報告を行う必要があります。資産額によっては、弁護士などが後見監督人として選任され、さらに報告義務が増えることがあります。
  • ランニングコストがかかる:後見監督人が選任された場合や、親族以外の専門家が後見人になった場合は、毎月報酬が発生します。
  • 後見人は本人のための行為しかできない:積極的な財産運用や、相続税対策を目的とした贈与などは原則として認められません。
  • 法定後見制度の場合、本人が後見人を選べない:家庭裁判所が選任するため、希望通りの人が選ばれるとは限りません。また、後見人の選任申し立てを取り下げることも原則としてできません。
  • 申し立てに費用と手間がかかる:弁護士や司法書士に依頼する場合は、数十万円の費用がかかることもあります。

家族信託

家族信託とは、親が信頼できる家族に財産を託し、その家族が親のためにその財産を管理・運用する仕組みです。信託契約を結ぶことで、財産の管理、運用、そして承継までをスムーズに行うことを目指します。

家族信託のメリットとしては、

  • 3つの機能を備えている
    • 委任契約:親が元気なうちから子などに財産管理を任せられる。
    • 後見制度:親の判断能力が低下しても、財産管理を継続してもらえる(ただし、身上保護は含まれない)。
    • 遺言:親の死亡後の財産承継先を自由に指定できる。
  • 財産の所有権はあくまで親本人に帰属する:生前贈与とは異なり、親は財産の所有者であり続けながら、管理を子供に任せることができます。
  • 積極的な資産運用も可能:信託契約の範囲内で、受託者(財産を託された家族)の判断により、柔軟な資産運用や相続税対策を行うことができます。
  • ランニングコストがほとんどかからない:成年後見制度のような毎月の報酬は原則として発生しません。
  • 契約の自由度が非常に高い:信託財産の範囲、受託者の権限、財産の承継方法などを、家族間の合意に基づいて自由に決めることができます。

一方、デメリットとしては、

  • 初期コストがかかる:専門家(弁護士や司法書士)への相談料、公正証書作成の手数料、不動産の登記費用などがかかります。信託財産の総額の1.5~2%程度が目安となることが多いようです。
  • 家族信託に詳しい専門家が少ない:相談する相手を間違えると、不利益な契約を結んでしまうリスクがあります。
  • 損益通算の禁止:信託財産である不動産から赤字が出た場合、他の所得と相殺したり、翌年以降に繰り越したりすることができません。

成年後見制度と家族信託は、どちらも複雑な制度であり、ご家庭の状況や希望によってどちらが適しているかは異なります。必ず専門家に相談し、それぞれの制度の内容をしっかりと理解した上で選択することが重要です。

まとめ

本日は、親の預金口座凍結に備える5つの対策について解説しました。

  1. 生前贈与で少しずつ資産を移していく
  2. 親のキャッシュカードを使えるようにしておく
  3. 金融機関の代理人制度を利用する
  4. 親の年金受け取り口座と生活費引き落とし口座を同じにしておく
  5. 成年後見制度や家族信託を活用する

手軽にできる対策としては1から4が挙げられますが、より本格的な対策としては5の成年後見制度や家族信託の活用が考えられます。ご自身の状況に合わせて、これらの対策を組み合わせることも有効でしょう。

しかし、最も重要なことは、家族間でしっかりと話し合い、お互いの気持ちを理解し、協力して対策を講じることです。経済的な側面だけでなく、感情のケアも大切にしてください。なぜお金のことを考えるのかというと、何より大切な家族関係を壊さないために考えるのです。

本日ご紹介した情報が、皆様にとって少しでもお役に立てれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。

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司法書士事務所TOKITO