家族信託
そもそも信託とは何ですか?What is Trust
信託とは、信じて財産を預けることです。簡単に言うと、自分の財産を信頼できる人に預けて、その人が約束通りに管理するようにすることを指します。これには主に3人の登場人物が関わります。
「財産を預ける人」と「財産を預かる人」、さらに「預けられた財産から利益を受け取る人」この3人が信託の登場人物であり、信託法ではそれぞれに名前が付けられています。「財産を預ける人」は「委託者」、「財産を預かる人」は「受託者」、そして「利益を受け取る人」は「受益者」と呼ばれます。
理解を深めるために、少し昔のお話しをします。どれくらい昔かというと中世です(笑)
信託の発祥は、戦乱が絶えない中世ヨーロッパに遡ります。当時、財産を持つ者が戦争に従事する際、信頼できる人物に財産を託して戦場へと向かったことが始まりです。
例として、Aさんのケースを挙げます。Aさんは小さい子供と奥さんと平和に暮らしていました。しかし、戦争に行かなければならなくなりました。Aさんの財産は不動産や金融資産で構成されており、奥さんや子供には管理が難しい状況でした。そこでAさんは信頼する人物に財産を委ね、その収益を家族に渡すように取り決め、戦場に赴く前にその準備を整えました。
財産を預かる人は、Aさんの指示に従い、財産を管理します。この人物はAさんに代わり、賃貸契約や不動産の売買などを行います。財産名義がAさんのままでは、これらの取引が円滑には行えません。契約の都度、戦場に契約書を送りAさんのサインをもらうことは難しいでしょう。そのため、戦争に出発する前に、財産の名義をすべてこの人物に変更しました。これにより、財産の管理と契約がスムーズに行えるようになります。
Aさんの財産を預かる人は、その財産を誠実に管理し運用する責任があります。財産が自分の名義になっても、勝手に使うことは許されません。Aさんの指示に従い、適切に管理し家族に利益をもたらすのが信託の本質です。
Aさんを「委託者」、Aさんの財産を管理する人を「受託者」と呼び、利益を受け取る家族を「受益者」と呼びます。Aさんが財産を託す行為を「信託」と言い、託された財産を「信託財産」と呼びます。受託者は信託財産を自己の財産と明確に区別し、万一、受託者が破産した時も信託財産は債権者の手が届かないように保護されます。これは、信託財産が実質上受益者の所有であるためです。
受益者は信託契約に基づき、受益者に対する給付を受け取る権利を持ち、受託者を監督する権利を持ちます。これを「受益権」といいます。
いかがでしょうか。信託について少しご理解を頂けましたでしょうか。
家族信託について教えてくださいWhat is family Trust
財産を持っている方(委託者)が、信頼できる人(受託者)に対して現金・不動産などの財産を移転し、一定の目的(信託目的)に沿って誰か(受益者)のためにその財産(信託財産)を管理・処分を行います。
親が元気なうちから始める
生前の財産管理です
家族信託により、親は自分の希望や想いを子に伝える期間が確保され、親が健康なうちは子の財産管理をチェックし安心して将来を託せるように育てていく期間ができます。また財産の承継先を指定できる遺言の機能もあります。
- 契約ですから老親の認知症が進んでいると手遅れです。
- 受託者となる子は、財産の管理処分を担当するだけです。財産は引き続き親のものであることには変わりません。
家族信託のメリットとデメリットPros & cons
メリット
- 資産凍結リスクに
対応できる - 親が認知症になると銀行の定期預金が下せなくなったり、不動産を売却することができなくなります。つまり親の財産が親自身の生活費や介護費用に使うことができないという事態が起こります。
- 資産凍結を解除するには、成年後見制度を利用するしかありません。この場合、純粋に親本人のためにしか財産を使えず、加えてそのランニングコストも無視できません。月2万円から6万円です。これがずっと続くとかなりの負担となります。
- 遺言ではできない
ことができる - 例えば、父親が他界時に、一人目の承継者を母親とし、母親の他界後の承継者を長男とし、長男の他界後は次男とすることも可能です。遺言では父親自身が母親の他界後の承継者を決めることはできません。また年金のように毎月定額を渡したい、相手が一定の年齢になったら渡したい、特定の使用目的(ex教育資金)に限定して渡したい、こんなことも自由自在です。
- 名義は移転するが
権利はそのまま - 息子の名義にするには早い!そのお気持ちよくわかります。けれども名義だけ息子さんにするだけで、権利はお父様のままです。
権利はお父様のままである以上、贈与税も不動産取得税もかかりません。
デメリット
- 損益通算の禁止と
損失の繰り越しの禁止 - 受益者が個人の場合:
信託から生じた損失は原則として損金になりますが、信託不動産から生じた損益は、なかったものとされるので、他の所得と損益通算できず、また翌年以降に損失を繰り越すこともできません。また不動産を信託財産とする信託契約を複数実行する場合、収支計算は契約ごとに完結するため相互の損益通算もできません。 - 受益者が法人の場合:
原則として損金計上できます。 ただし、以下の場合には制限があります。
受益者が実質的に信託財産を超えて信託に係る債務を弁済することがない場合: Ex信託された財産の簿価純資産を超える損失の金額は、損金に算入されません。 実質的に信託から生じる損益が欠損にならない場合 (損失補填契約がある場合等) : 信託から生じる損失の全額が損金に算入されません。 また、損金に計上できなかった損失は繰越できます。 (繰越期間に制限はありません)
- 初期費用がかかる
- 専門職のコンサルティング費用、公証役場手数料・司法書士の登記手続き費用・登録免許税等が初期費用としてかかります。
おおまかには、信託財産の1.3%から2%が初期費用の目安です。ただ、その分ランニングコストはほとんど発生しないため、永続的にランニングコストがかかる後見制度と比較することが大切です。ただし家族信託の場合でも信託監督人に専門家を選定した場合にはランニングコストがかかります。
家族信託で重要な事は?Key steps to consider
家族会議
関係する方々との丁寧な話し合いです。お子様が複数いる場合には全員を交えて家族会議を重ねることです。十分に検討を重ねて、時間をかけて話し合いを重ねていく事で先々まで納得ができる形を取ることができます。どう切り出していいか分からない方もいると思います。私たちは家族会議同席サービスも行っております。その場に私たち専門家が同席することで疑問や懸念事項に対応してスムーズに進めることができます。
他の制度との併用も考える
信託も万能ではありません。信託対象にできない財産(年金等)も存在します。例えば、重要な一部の財産についてのみ信託を設定して、それ以外の財産は遺言や任意後見の対象とし、ご本人がお元気なうちはご本人が管理をして、判断能力低下後は任意後見が効力発生するという設計の仕方もあります。可能な限りの財産を信託に組み入れるという考え方もありますが、大切なのはご本人やそのご家族が円滑に生活ができるよう設計することが肝要です。
一般社団法人つくば認知症・相続対策財産管理センター
家族信託活用事例Case study
将来空家となる実家を
スムーズに売却したい
状 況
現在、古い一軒家に一人暮らしをしている母(84歳)を心配に思っている長女からの相談です。父は他界しており、母には長女と次女がいます。母の足腰が最近悪くなってきており、将来高齢者施設への入居を考えています。財布や預金通帳がどこにあったかわからない等母の物忘れが最近増え、認知症の程度が進んでいることを心配しています。
何もしなかった場合
お母さまの年齢と現在の状況を考えると、数年後に判断能力を喪失した状態になってしまう可能性があります。その場合には、施設へ入居するための費用捻出のために自宅を貸したり、売却処分することができなくなります。
成年後見制度を使った場合
- ご本人にある程度の金融資産がある場合には、親族が成年後見人になれず、 司法書士、弁護士等の専門家が選ばれる可能性が高いです。
- 自宅を売却する場合、お母さまの施設利用料の支払いや生活費の不足等、「売却することの合理的理由」がなければ家庭裁判所により売却が認められない可能性が高いです。
- お母さまのお金を使ってリフォームすることや、お孫さんにお小遣いをあげる等の行為もお母さまの利益になるかどうかが重視されるため、認められない可能性があります。
- 売却等の目的を達成したあとも成年後見人は途中で辞任できないため、その後も成年後見人制度は継続します。
家族信託を使った場合
- ご所有者であるお母さまを委託者、長女を受託者、利益を受ける受益者をお母さまとし、お母さまの自宅と金融財産を信託財産とする信託契約を締結します。
- 委託者と受益者がお母さまであり、名義だけを受託者である長女とする信託契約をしているため、不動産取得税、贈与税や譲渡取得税等は発生しません。
- 徐々に判断能力が低下しつつある状態でも、信託を利用することで、数年にわたっての日常生活費の送金、自宅の管理修繕、高齢者施設への入所後の処分等の行為も信託契約で決めた目的に従い、受託者である長女の判断でお母さまの財産を自由に処分、活用することができます。
- 自宅を売却した時の売却代金は、受益者であるお母さまのものであるため、その管理を受託者である長女が行い、お母さまの生活費等のために使うことができます。
- 最終的にお母さまが他界した場合には、死亡時に残った信託財産(自宅と現金、自宅を売却した場合には、残った現金)を相続財産として相続人が取得することになります。遺言のように権利の帰属先を決めておくこともできます。
認知症での資産凍結や
相続税対策が頓挫することを防ぐ
状 況
アパートを複数持っている父と、その子である長男、長女の2名のご家族です。父は自分でアパートの管理を行っていますが、先日も外出先で急に倒れ数日間入院する等、体調も悪くなってきました。無事退院しましたが、物忘れがひどくなっており、認知症を危惧しています。今後、認知症の程度が進むと、アパートに入居希望者が出た場合や退去者が出た場合の契約手続き等のアパート賃貸管理や修繕、また、相続の問題を心配しています。
何もしなかった場合
認知症等、お父さまが判断能力を喪失した場合には、アパートの賃貸管理や売却処分、大規模修繕、建替え等による維持管理ができなくなります。
お父さまの相続発生後、相続税申告期限内(相続開始後10か月以内)に法定相続人の間で、誰が相続するか遺産分割協議をまとめる必要があります。(遺言を作っていない場合)
成年後見制度を使った場合
- ご本人に資産があるため、親族が成年後見人になれず、司法書士や弁護士等の専門家が成年後見人になる可能性が高いです。この場合外部専門家の定期的な報酬がかかります(2万~6万/月)。
- ご本人にとって合理的な理由のある支出しか認められず、家族にとってメリットのある行為、例えば、将来の相続税対策としてアパートの建替えによる資産圧縮や資産の組み換えを図ることはできません。
- 父の相続発生後、相続税申告期限内(相続開始後10か月以内)に法定相続人の間で誰が相続するか遺産分割協議をまとめる必要があります。(遺言を作っていない場合)
家族信託を使った場合
- 所有者であるお父さまを委託者、長男を受託者、そして利益(家賃)を受け取る権利はお父さまとするため、受益者はお父さまとし、アパートを信託財産とする信託契約を締結します。
- 委託者と受益者がお父さま、受託者を長男とする信託契約としているため、不動産取得税、贈与税や譲渡取得税は発生しません。
- お父さまが元気なうちは、お父さまと長男が一緒にアパートの管理をして、将来、お父様が判断能力を喪失された場合には、受託者である長男が財産管理処分権限をもっているため、入退去時の賃貸借契約のはか、大規模修繕、建替え、売却を行うことができます。
- 信託契約書の中に、将来相続が起こった場合に、どの物件を誰が相続するのか残余財産の帰属先を定めておくことができます。遺言を作成しなかった場合でも、相続発生後に遺産分割協議をせずに、信託契約書で定めたとおりに財産を相続させることが可能となります(別途遺言の作成はお勧めしますが)。
家族信託を選んだ場合でも、
親が認知症になると
成年後見人は必要ですか?
家族信託の受託者は、「身上保護の権利」を持っていません。そのため、認知症の親を病院や施設に入れる際には、成年後見制度を使う必要があると誤解している人が多いです。「身上保護」とは、福祉や介護、医療サービスの利用を検討して契約することを指します。しかし、実際には、身元引受人となる家族がいる限り、入院や介護の手続き、ケアプランの作成など、通常は子供や孫、甥や姪など家族が事実上これらを行えるため、成年後見制度を利用して身上保護権を持つ人を決める必要はありません。
成年後見制度での身上保護権が重要となるのは、家族間での医療や介護に関する意見が分かれる場合です。このような状況では、後見人が身上保護の権限を持つことで最終決定権者を決めるメリットがありますが、家族関係が良好な場合は、後見制度を使わずに親のサポートを整えることが可能です。
つまり、家庭が円満でありさえすれば、 成年後見制度を使わず、老親の生涯にわたる財産管理・生活サポートの部分については 「家族信託」で万全にしておいて、弱ってしまった後の入院・入所手続きを含めた身上保護の部分は 「子の立場」として担うことができるケースが多いと考えます。
ペット安心信託詳細
ペットたちの将来を
考えたことはありますか
ペット安心信託とは、飼主様が信頼できる方にペットとそのお世話にかかる費用をお預けして万が一に備える手続きです。
ご高齢者様でも、安心してペットを飼うことができる それがペット安心信託です
特に高齢者の方は、急な病気や怪我によりペットの面倒をみられなくなってしまったり、ペットよりも先に自分が亡くなってしまうリスクを常に抱えています。同居家族がいれば任せることもできますが、頼りになる家族や知人が近くにいない方もおられます。このような場合には、ペット安心信託を利用することで、大切なペットの世話をお願いすることが可能になるのです。
負担付き遺贈(死因贈与)との比較
- ペット安心信託
- ペットについて信託契約を締結する場合には、飼い主の方(委託者)が信頼できる第三者(受託者)との間で信託契約を交わして、その人にペットの飼育に必要となる財産を託します。飼い主が健康なうちは本人がペットのお世話をしますが、病気や怪我などによりペットの世話ができなくなった場合は、信託契約によって指定した受益者がペットのお世話を行います。信託監督人を選ぶことでお世話が適切に行われているか財産が適切に利用されているかチェックすることができます。
- 負担付遺贈
- 負担付遺贈とは、遺言によって遺贈者(財産を渡す人)が受遺者(財産を受け取る人)に対して、財産を相続させる代わりに一定の債務(ペットのお世話をする)を負担させる手続きのことです。しかし、遺贈者が遺言により一方的に受遺者に負担を課すものなので、受遺者がペットの飼育や遺産の受け取りを拒否する可能性もあるというデメリットがあります。
- 負担付死因贈与
- 贈与者(財産を渡す人)と受贈者(財産を受け取る人)との間の生前の合意により、贈与者が亡くなったときに財産の贈与と債務の負担(ペットのお世話をする)が始まる契約のことをいいます。合意によって行われるものであるため、死後に受贈者からペットの世話を断られるというリスクはありません。
- なお、負担付遺贈および負担付死因贈与はどちらも個人間の手続きや契約であるため、ペットの世話が適切に行われているかをチェックする仕組みはありません。
- 遺贈や死因贈与する相手を全面的に信頼できない場合には、ペット信託に比べて不安の残る方法であるということは留意しておきましょう。
ペット安心信託の注意点
- 費用がかかる: ペット安心信託を利用するためには、お世話にかかる費用を、信託財産として信託契約時に一括で用意する必要があります。ペットの種類や年齢などによって異なってきますが、数年分の飼育費用として百万円単位の費用がかかることもあります。
- 受託者や受益者を選ぶのが難しい: ペット信託では、自分に代わって財産の管理を行う受託者やペットの世話を行う受益者を見つけなければなりません。周囲に信頼できる家族や友人がいたとしてもそもそもペットを飼育できる環境に住んでいないということもあるため、受託者や受益者の選定で難航することがあります。
ご自身の周りに適切な管理者が見つからない場合もお気軽にご相談下さい。